体で覚えたことは
頭で覚えたことはすっかり忘れても、体で覚えたことはある程度年数がたっても完全に忘れることはないという話がありますが、それを実感する出来事がありました。
職場の余興で、賞金十万に惹かれ、昔取った杵柄でフルートを吹くことになったのですが、楽器を吹くのは二十年振り。
本当に吹けるのか?
かなり不安でしたが、その間全く吹いてなかった割には運指もそこそこ覚えており、一応と出力しておいた運指表を見て一通り確認すると、音の鳴り方は別にして、記憶がすっと戻って来る感覚ですぐに問題なくドレミを鳴らせるようになりました。
これが体で覚えたことはいつになっても覚えているというやつか~なんてちょっと感動しつつも、そこはやはり二十年ぶりでは日頃の運動不足も相まってそれはまぁ腹筋使っての呼吸が出来ません。苦笑。腹に力が入らないので高音がなかなかすんなり出ない。
声で例えるならば、上ずるような感じで音が出るわけですが、それでもこれはいわゆる体で覚えていることに属するものなので練習すればなんとかなるレベル、と思う。
少なくとも忘年会という場で大半が飲酒済みという状況の素人に聴かせるだけなので、音さえ外さなければ十分通用するはず。
問題は・・・頭で覚えている部類に属するものですよ。
楽器を演奏するうえで頭で覚えねばならないものとは、そう「楽譜を読む」ということです。
五線譜に書かれている音符の位置が何の音になるのか、それは頭で覚えているものに属すのです。ようするに、楽譜がすんなり読めない・・・。
かなり致命的だと思います。苦笑。
やっているうちにだんだん思い出しはしますが、それは十分な時間的余裕がある場合です。今回の降って湧いた余興は忘年会まで僅か二週間という制約の中で完成させる必要がある上に、長いブランクのせいで正直、きちんと音を出すことだけでもそこそこの集中力を持っていかれるというのに、セッション形式で演奏するのですから、周囲に合わせながら音符をちんたら解読する余裕なんてないわけですよ。
暗譜という手もありますが、昔の記憶を呼び起こすための記憶力さえこの有様なのですから、新たな脳領域を使って覚えるなんてとんでもない話です。
到底無理。
諦めた私は幼稚園児が初めてピアノを習うときのごとくドレミを書き足しました。笑。
完璧。
これで五線譜の音符を解読する作業だけはなくなったのです。
この作業、英訳と似ていると思うの。
この音は何番目に書かれているから・・・Ⅾの音、みたいな解読作業は英単語を見て記憶の中にあるそれが意味する日本語に紐づけする作業と似ていますでしょ?
そして、英語が完全に身につくと英単語をいちいち日本語に訳する作業を省略出来るわけなので、音符を読むのも、この位置にあるから〇の音みたいな作業をやる必要はないわけなので、似ていると思うのですよ。
ようするに私の中では音符を読む作業がまだまだ体に染みつくまでには至っていなかったんだろうな~と実感しました。
それはさて置き、メンテナンスもろくにやっていない楽器で、ろくに練習もせず、昔取った杵柄というだけでのフルート演奏なのですから、多少の練習はしたものの本番でもとても音楽経験者には聴かせられないレベルでした。
が、見事に我がチームは優勝しました!
めでたく賞金もゲットとなったのですが、これにはオチがありまして、忘年会の一週間前に「忘年会予算が高すぎる」と企画していた幹事たちに事務局のドンからクレームが入り・・・優勝賞金が三万に下げられていたのです。
もちろん事前連絡はありましたが、すでに練習も始めているし、一週間前に別の余興を考えなおすほうがより大変なので、余興内容だけは変わらずに突き進むしかなかったのでした。
ま、みんなの飲み代くらいにはなるかな~。
何より、部屋の片隅で役目を全うできずにただただ長い眠りについていたフルートにひと時でも活躍の場が提供できただけでも良かったのかなと思います。